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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー67【東屋】

第五十帖  <東屋  あずまや-1>  あらすじ

薫は浮舟の身分があまりに低いので、直接文を贈ることはありませんが、弁の尼君の方から
母君に思いを伝えさせています。
薫の申し出を嬉しく思うものの、やはり身分が違い過ぎると思い、違う縁談話を進めている母君。
夫・常陸の守との間にはたくさんの子供が生まれていましたが、田舎じみた父に似て、どれも平凡な様子。
それでも常陸の守は自分の子ども達だけをかわいがり、浮舟をないがしろにしていました。
田舎じみてはいても、財産だけはあるので屋敷には大勢の人々が仕え、常陸の守の幾人かの娘を目当てに
若い貴族達が集まってきます。
母君は若者達の中でも趣味のよい左近の少将(さこんのしょうしょう)を婿にしようと考えていました。

八月に入り、左近の少将の方から結婚を急ぐように言ってきたので母君は仲立ちをしている人に、
浮舟が常陸の守の実の娘ではないと話します。
仲立ち人の話を聞き、はじめから常陸の守の財産が目当てだったので、縁談を断ろうとする左近の少将。
「それでは常陸の守の次の娘はいかがでしょう。」と仲立ち人がすすめると、
「綺麗で身分の高い女などいくらでもいる。風流ぶっても財産がなくて落ちぶれるより、
まずは暮し向きを安定させたいのだ。」と、あっさり相手を変えることにしてしまうのでした。

仲立ち人から左近の少将の意向を聞いた常陸の守は大喜び。
一番大切にしている実の娘と結婚してくれるなら、大臣就任運動にも財産を惜しまないなどと大げさな話をしました。
少将ははじめに話をしていた浮舟の方は気になるものの、やはりしっかりとした後見が欲しいと
結婚の日取りさえそのままに通うことを決めてしまいます。

母君は何も知らずに結婚の支度をしています。
「もし八の宮が浮舟を認めてくれていたら薫君が通ってもなんの不都合もないのに。」と情けなく思いつつ、
今回の縁談も悪くはないのだからと心を引き立てようとする母君。
そこへ夫・常陸の守がやってきて、少将が実の娘に乗り換えたことを何の心くばりもなく言い放ちました。
母君は物も言えません。

少将の仕打ちがただ情けなく、しばらく屋敷を出てしまいたいと思う母君。
「かえって運が良かったのです。やはり姫を薫の君に。」と浮舟の乳母は慰めます。
「薫の君はいろいろな縁談を断ってようやく皇女さまと結婚された方。
浮舟など女房の一人にされてしまうでしょう。
中の姫も匂宮との結婚がうまくいっているようだけれど、いろいろ悩んでいらっしゃる様子。
常陸の守は田舎ものだけれど私一人を妻とあがめてくれたので、ここまでやってこられたのです。
私の八の宮との過ちから発したことだけれど、どうあっても浮舟だけは幸せにしたい。」
母君はあれこれ思い悩むのでした。

常陸の守は、浮舟のために母君が用意した部屋をそのまま婚礼につかうことに決めました。
趣味良く飾り付けた部屋にさらに調度を大量に運び入れたので、足の踏み場もないほどです。
母君はこの婚礼には口出しはしないときめたので黙っていますが、少将が日取りも
変えずに通ってくるのがおもしろくなく、中の姫に文を届けました。

「浮舟をしばらく隠しておきたいのですが、頼る先は中の姫さましかいないのです。」
中の姫は八の宮のことを考えて躊躇しましたが
「身分低い方が姉妹にいるのはありがちなこと。」と女房が言うのにまかせ、
浮舟のための部屋を用意させます。
中の姫と近しくなりたいと願っていた浮舟は、この縁談が流れたことをかえってよろこぶのでした。

恋愛セミナー67

1薫と浮舟         ほのかに
2浮舟と左近の少将   財産目当て

結婚を介した、かなりあからさまな話です。
妻の財産を当てにするというのは、この時代ではありふれたこと。
源氏もはじめの結婚は左大臣の後見をえることも大きな目的でした。
薫の場合は、母・女三尼宮が二品という高い位で領地も多く、財産が
あるのですが、八の宮のように皇族出身でも手元が不如意になってしまうことも多かったのです。
財産は家付き娘の女性が受け継ぐことが多いこの時代。
男性が女性のもとに通うのが一般的な結婚の形で、出世するのも婚家の力次第ということ。
左近の少将の「風流ぶっていても財産がなければ。」という考えも、よくあることだったのでしょう。

顔をみないままに女性のもとに通い始めるのもごく普通のこと。
薫も女二宮の顔を見ているわけではありませんでした。
匂宮も大姫か中の姫かわからないままに通いはじめましたから、
同じ常陸の守の娘なら、姉だろうと妹だろうと同じというのも、乱暴なようですが、ありうること。
それにしても、結婚の日取りも変えず、文を交わした様子もなのは、少将の人品が透けてみえますね。

追い出されるような形で中の姫を頼ることになった浮舟。
薫も中の姫も、お付き合いするには身分が低いと躊躇されています。
常陸の守といえば、今の知事クラスの身分ですが、位から言うと従五位。
少将は正五位にあたります。
薫は大将で従三位にあたり、上達部(かんだちめ)として宮廷で帝のそばにあがることもできる地位。
中の姫の夫・匂宮は次期東宮というさらに雲の上の存在。
やはり、浮舟と薫や中の姫の間には、大きな身分の隔たりがあるのです。

浮舟の母君が薫との結婚に戸惑いを覚えるのは、この身分の差と上流階級の浮気沙汰。
身分が高くなるほど、男性は女性との関係が乱脈になり、何人もの妻を迎えることになる。
皇族と結婚できるほどの叔母を持つ母君が、関係を持った八の宮の冷たさに傷つき、
身分低い地方役人の妻となる選択をした。
その結果、上流社会とは縁遠くはなっても妻としてはまずまず幸福な人生を歩んできた。
少将という手の届く身分の男性を相手に選んだのも、身分よりも浮舟を妻一人と定めて
愛してくれるだとうという思いがあったからこそ。
一夫多妻が許されていたこの時代でも、唯一の存在として大切にされたいというのが
女性の本音なのは、いまと変わりないのでしょう。


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